「俳優や歌手の幸福は彼らの作品ののこらぬことである。ーーと思うこともないわけではない」

- 1892年3月1日~1927年7月24日
- 日本出身
- 小説家、評論家
原文
「俳優や歌手の幸福は彼らの作品ののこらぬことである。ーーと思うこともないわけではない」
解説
この名言は、演技や歌という時間芸術の儚さに対する逆説的な肯定である。芥川は、俳優や歌手の作品が「のこらぬこと」、つまり記録や形として後世に残らないことが、むしろ彼らにとっての「幸福」であるのではないかと推測している。その言い回しに「ーーと思うこともないわけではない」と付け加えることで、断定を避けつつも、深い共感と含みをもたせている。
芥川自身は文筆家として、作品が「残る」ことを運命づけられていた。しかしその一方で、作品が残ることによる重荷や誤解、あるいは永遠性への恐れも強く抱いていたとされる。だからこそ、演者の表現がその場かぎりで消え去ることに、ある種の自由や救いを見るのだ。そこには、評価されずに済むことの軽さ、過去に縛られない幸福がある。
現代では映像や音声の技術により、俳優や歌手の表現も記録され、半永久的に残るようになった。しかし、芥川のこの言葉は、「残ること」が本当に幸福なのかを問い直す視点を私たちに与えてくれる。一瞬の芸術、一回性の美しさこそが、表現の純粋さを保つという感性が、この名言の奥底に潜んでいるのである。
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