「五欲の克服のみに骨を折った坊主は、偉い坊主になったことを聞かない。偉い坊主になったものは、つねに五欲を克服すべき、他の熱情を抱き得た坊主である」

芥川龍之介の名言・格言・警句(画像はイメージです)
芥川龍之介の名言・格言・警句(画像はイメージです)
  • 1892年3月1日~1927年7月24日
  • 日本出身
  • 小説家、評論家

原文

「五欲の克服のみに骨を折った坊主は、偉い坊主になったことを聞かない。偉い坊主になったものは、つねに五欲を克服すべき、他の熱情を抱き得た坊主である」

解説

この名言は、自己抑制だけでは真の高僧にはなれないという芥川の人間観と宗教観を表している。「五欲」とは仏教における五つの根本的欲望(財・色・食・名・睡)を指し、これを克服することは修行者の基本とされている。しかし芥川は、その克服そのものを目的とする修行には限界があり、むしろ別の、より高次の熱情――理念や慈悲、悟りへの希求といった積極的な精神を抱くことによって、結果として五欲を超えることができるのだと主張している。

これは、禁欲主義の内向きな修行に対する批判であり、精神的な成長や宗教的人格の完成には、何かを我慢するだけでは不十分であるという洞察である。芥川は、宗教家に限らずすべての人間にとって、自己否定だけでなく、建設的な理想や情熱が必要であることを説いている。五欲の克服は目的ではなく、より大きな目標を追う過程で自然と果たされるべき副次的結果にすぎないのである。

現代においても、この名言は多くの分野に通じる。自己制御や節制は確かに重要だが、それだけに囚われると、人間としての創造性や前向きな力が失われる。たとえば禁欲的な生活を志しても、そこに使命感や価値の実現といった「熱情」がなければ、ただの抑圧的な日々に終わってしまう。芥川のこの言葉は、人間が本当に高められるのは、抑制よりも志によってであるという、力強い倫理的教訓なのである。

感想はコメント欄へ

この名言に触れて、あなたの感想や名言に関する話などを是非コメント欄に書いてみませんか?

「芥川龍之介」の前後の名言へ


申し込む
注目する
guest

0 Comments
最も古い
最も新しい 高評価
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る