「だれが御苦労にも恥じ入りたいことを告白小説などに作るものか」

- 1892年3月1日~1927年7月24日
- 日本出身
- 小説家、評論家
原文
「だれが御苦労にも恥じ入りたいことを告白小説などに作るものか」
解説
この名言は、告白小説の本質と限界に対する芥川の鋭い批判を表したものである。芥川はここで、いわゆる「私小説」や「告白小説」において語られる内容が、あたかも真実のすべてであるかのように読まれる風潮に対して懐疑を呈している。「御苦労にも恥じ入りたいこと」とは、人間のもっとも醜く、弱く、他人に知られたくないような内面のことを意味しており、それを本当に公に書く人間などいるのか、と問いかけている。
この姿勢には、芥川の文学に対する倫理的な誠実さと、美学的な距離感が表れている。彼は、文学が真実に迫るものであっても、あくまで構築された表現であり、露悪や暴露とは異なるべきだと考えていた。したがって、自分の最も恥ずかしい部分をあえて書き出すような行為は、実際には書き手の計算や演出、自己保存本能の下にあると看破している。
現代においても、この言葉は示唆に富む。エッセイやSNS、ドキュメント作品などで「赤裸々な自分」を語る表現が溢れる中、それが本当に内面の核心をさらしているのか、それとも演出された自画像なのかを見極める目が求められる。芥川のこの名言は、文学とは「本当らしさ」ではなく、「どれだけ本質に迫ろうとする意志と構築」があるかを問う営みであるという、根源的な洞察を鋭く語っているのである。
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