「神に感謝すべきことに、私は陽気だったことが一度もない。私はマザー家という幸せな血筋の出でね。あの人たちはご存知のとおり、神の慈愛と幼子の地獄行きを黙想しながら、甘美な朝を過ごしたものさ」

- 1838年2月16日~1918年3月27日(80歳没)
- アメリカ合衆国出身
- 歴史家、文筆家、政治評論家
英文
”Thank God, I never was cheerful. I come from the happy stock of the Mathers, who, as you remember, passed sweet mornings reflecting on the goodness of God and the damnation of infants.”
日本語訳
「神に感謝すべきことに、私は陽気だったことが一度もない。私はマザー家という幸せな血筋の出でね。あの人たちはご存知のとおり、神の慈愛と幼子の地獄行きを黙想しながら、甘美な朝を過ごしたものさ」
解説
この名言は、皮肉と宗教的歴史に満ちたアメリカ文化批評として読むべきである。ヘンリー・アダムズは、自らの陰鬱で批判的な気質を肯定しつつ、それをニューイングランドの敬虔主義者の末裔としての遺産になぞらえている。「マザー家(the Mathers)」とは、17世紀の清教徒指導者であるインクリース・マザーやコットン・マザーを指し、彼らは敬虔でありながら、厳格で過酷な神学を説いたことで知られる。
アダムズは、そうした清教徒的厳格主義に育まれたアメリカ文化の矛盾と陰鬱な倫理観を、ここではユーモアとアイロニーを交えて表現している。「神の慈愛と幼子の地獄行き」を同時に黙想するというくだりは、宗教的な優しさと冷酷さが同居する精神風土の風刺であり、罪や救済という観念がいかに極端かつ人為的に操作されうるかを示している。
この名言は、個人的な気質の自嘲であると同時に、アメリカ的道徳観の歴史的ルーツへの批判的まなざしを含んでいる。現代にも通じるテーマとして、明るさや前向きさばかりが強調される風潮への逆説的な抵抗としても読むことができる。アダムズはここで、深刻さや懐疑こそが知性の証であり、信仰もまた笑えないほどの矛盾を含んでいることを、鮮やかに皮肉っている。
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