「国家の支配者だけが、国内外において嘘をつく特権を持つべきであり、国家の利益のために嘘をつくことが許される」

プラトン
プラトンの名言
  • 紀元前427年~紀元前347年
  • 古代ギリシアのアテナイ(アテネ)出身
  • 哲学者、学者、アカデメイア(アカデミー)の創設者
  • ソクラテスの弟子で著作に『国家』や『饗宴』などがあり、イデア論や哲人政治などの概念で西洋哲学に大きな影響を与えた

英文

”The rulers of the state are the only persons who ought to have the privilege of lying, either at home or abroad; they may be allowed to lie for the good of the state”

日本語訳

「国家の支配者だけが、国内外において嘘をつく特権を持つべきであり、国家の利益のために嘘をつくことが許される」

解説

この名言は、国家の指導者にのみ、国家の利益を守るために嘘をつく権利があるという、倫理的に非常に議論を呼ぶ考え方を提示している。プラトンは、国家の統治者が正しい理由に基づいて嘘をつくことを許される場合があると述べているが、それはあくまで国家の安全や市民の福祉を守るための「必要な嘘」に限られる。このような嘘は、非常時における情報操作や、外交上の駆け引きにおいて正当化される場合があると考えられる。

プラトンはその著作『国家』において、理想的な指導者は哲人王であるべきと述べている。哲人王は、高い知識と倫理観を持ち、国家全体の幸福を追求することが求められる。こうした指導者が、国家の安定や市民の安全のために嘘を用いることは、通常の市民にとっては許されない行為であっても、特定の状況では許容されると考えた。この考えは、嘘が悪であると同時に、時には「善のための手段」として使われるべき場合があるという矛盾した倫理観を示している。

現代の視点から見ると、この考え方には賛否両論がある。民主主義社会では、政治家や指導者が国民に対して真実を語ることが基本的な義務とされており、嘘をつくことは信頼の損失につながると考えられている。特に、情報公開や透明性が重視される現代では、国家の利益のためであっても嘘が許されるべきかどうかは激しい議論を呼ぶ。しかし、安全保障や外交など、国家の存続がかかっている状況では、戦略的な嘘が必要とされる場合がある。たとえば、戦争中に敵国を欺くための情報操作や、テロの脅威に対する秘密保持がそれに当たる。

この名言はまた、倫理と実用性の間の葛藤を反映している。倫理的には、嘘をつくことは道徳的に許されないと考えられているが、現実的な状況では、その限界が問われることがある。たとえば、政府が国民のパニックを防ぐために、一部の情報を伏せることが正当化されることもある。この場合、嘘をつくことで社会の安定を維持できるのであれば、それは「より大きな善」のための手段とみなされる。しかし、このような行為が濫用されると、政府の信頼性が損なわれ、社会全体が不安定になる危険性もある。嘘を正当化することは、慎重に考慮しなければならない倫理的なジレンマである

歴史的な事例も、このテーマを理解するのに役立つ。たとえば、第二次世界大戦中のイギリスの首相ウィンストン・チャーチルは、戦争の勝利を確実にするために情報を巧みに操作したことで知られている。敵国を欺くための偽情報や、国民の士気を保つためのポジティブなメッセージは、戦略的な嘘と見なされるが、戦争全体の結果においては重要な役割を果たした。このような例は、嘘が正義や国家の存続のために使われることがあることを示しているが、それでもなお、その使用には大きな責任とリスクが伴う。

一方で、この考えは危険な先例となる可能性もある。指導者が嘘をつく特権を持つとされると、その権限が濫用され、不正や腐敗が広がる恐れがある。プラトンの意図は、正義を重んじる指導者が国家の善を守るためにこの特権を慎重に行使することを想定しているが、実際には、すべてのリーダーが高い倫理的基準を持つとは限らない。したがって、この考え方は常に監視とバランスを必要とする。権力のある者に嘘の特権を与えることは、重大な倫理的リスクを伴う

結局のところ、プラトンはこの言葉を通じて、国家の指導者が時に厳しい決断を下さねばならないという現実を指摘しているが、それが正当化されるかどうかは状況による。現代社会においては、透明性と責任が求められるが、時には国家の利益のために秘密や嘘が必要になることもある。私たちは、この教訓を踏まえ、倫理と実用性のバランスを慎重に考え、リーダーが正当な目的のためにその権限を行使することを望むべきだ。嘘をつく特権は慎重に使われなければならず、その使用が本当に正義にかなっているかを常に問う必要がある

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