「トランプの遊びのように、マイナスを全部あつめるとプラスに変るという事は、この世の道徳には起り得ない事でしょうか」

- 1909年6月19日~1948年6月13日(38歳没)
- 日本出身
- 小説家
原文
「トランプの遊びのように、マイナスを全部あつめるとプラスに変るという事は、この世の道徳には起り得ない事でしょうか」
解説
この言葉は、太宰治が人生における「罪」や「欠点」が総体として救済に転じる可能性を問うた逆説的な思想である。トランプの遊びでは、マイナスが積み重なれば一転してプラスに転じることがある。しかし現実の道徳においては、悪行や欠点が積み重なっても、必ずしも善に転化するわけではない。太宰はその不条理に疑問を投げかけつつ、人間の存在そのものの矛盾を表現している。
昭和初期の時代背景では、道徳や倫理は個人を律する絶対的な基準として語られていた。しかし太宰は、その厳格さに反発し、むしろ人間の弱さや罪深さを抱え込んだまま肯定される可能性を探っていた。彼の文学は常に「罪」と「救い」の狭間で揺れており、この言葉もまた、救済への渇望と絶望を同時に示している。
現代においても、この言葉は示唆に富む。人は失敗や過ちを繰り返しながら生きており、その累積が必ずしも不幸だけを生むのではなく、時に人間的な深みや優しさに転じることがある。太宰の問いかけは、道徳の絶対性を疑い、人間の弱さを肯定する余地を示すものであり、今なお普遍的な意味を持っているのである。
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