「誰の心にも自分の過去を弁護し修正しようと思う傾向はあるから、意識せずに先ず自ら欺いて、そして人を欺くことがある」

- 1862年2月17日~1922年7月9日(60歳没)
- 日本出身
- 小説家、評論家、翻訳家、軍医
原文
「誰の心にも自分の過去を弁護し修正しようと思う傾向はあるから、意識せずに先ず自ら欺いて、そして人を欺くことがある」
解説
この言葉は、自己正当化の心理とそれがもたらす自己欺瞞・他者欺瞞について述べている。森鴎外は、人は誰しも自分の過去の行動や選択を肯定的に捉えたいという傾向を持つため、無意識のうちに事実を都合よく解釈してしまうと指摘している。その過程で、まず自分自身を欺き(自己欺瞞)、その結果として他者にも誤った印象を与え、意図せず人を欺くことになると述べている。
この発想の背景には、鴎外の鋭い人間観察がある。明治から大正期の日本は急速な変化の中で、人々は過去の行動や発言を新しい価値観に合わせて「修正」する必要に迫られることが多かった。鴎外はそうした状況で、人間が意識的ではなく無意識に事実を作り替える心理を見抜き、それを文学や評論の題材にもしていた。
現代においても、この現象は心理学で「認知的不協和」や「自己正当化」として知られている。過去の失敗や不都合な事実を受け入れるよりも、自分の一貫性や正当性を守るために記憶や解釈を変えてしまうのは、多くの人に共通する傾向である。自分を欺くことから始まる無自覚な他者欺瞞というこの指摘は、人間関係や歴史認識において今も重要な警句となっている。
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