「文明は個人に自由を与えて虎の如く猛からしめたる後、之を檻穽の内に投げ込んで、天下の平和を維持しつつある」

- 1867年2月9日~1916年12月9日(49歳没)
- 日本出身
- 小説家、評論家、英文学者
原文
「文明は個人に自由を与えて虎の如く猛からしめたる後、之を檻穽の内に投げ込んで、天下の平和を維持しつつある」
解説
この言葉は、文明が個人の力や自由を極限まで引き出しながら、最終的にはそれを制御下に置くという構造的矛盾を表している。「虎の如く猛からしめたる後」とは、教育や制度によって人々を能力ある存在に育て上げ、活力と自信を持たせることを意味する。しかし、その力が社会秩序を乱す恐れがあるとき、文明はそれを「檻穽(おりあな)」に閉じ込め、統制を加えて平和を保とうとするのである。
この洞察の背景には、漱石の近代社会批評と自由観がある。明治期の日本は西洋の自由主義や個人主義を導入し、国民に自己主張や能力発揮を促したが、同時に国家や社会はその自由を制限し、全体の秩序維持を優先した。漱石は、この現象を動物的な比喩を用いて描き、文明の表と裏の働きを浮き彫りにしたのである。
現代においても、この構図は変わらない。民主主義社会では言論や行動の自由が保障される一方で、法律、社会規範、監視システムによってその自由は制約される。文明は個人を強くしながら、その強さが秩序を脅かさぬよう管理する——この言葉は、自由と統制のバランスをめぐる普遍的な問題を鋭く示している。
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