「人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。矢張り向う三軒両隣りにちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい」

- 1867年2月9日~1916年12月9日(49歳没)
- 日本出身
- 小説家、評論家、英文学者
原文
「人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。矢張り向う三軒両隣りにちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい」
解説
この言葉は、人間社会の成り立ちと限界を冷静に見据えた人生観を示している。世の中を形作っているのは超自然的な存在ではなく、日常に暮らす普通の人々である。そこには善も悪も、優しさも狭量さも混在しており、その複雑さが社会の性質を決めている。そして、もしその社会が「住みにくい」と感じられても、結局は同じ人間が作る別の社会しかなく、根本的な逃げ場はないという現実を突きつけている。
この視点の背景には、明治から大正期にかけての社会変動と漱石自身の人間観がある。近代化によって制度や生活は大きく変わったが、人間そのものの本質や弱点は変わらなかった。漱石は、人間社会の欠点を嘆くよりも、その現実を受け入れつつ、個人としてどう生きるかを考えるべきだと示唆している。これは理想主義に偏らず、現実と折り合いをつけるための知恵でもあった。
現代においても、政治や経済、コミュニティに不満を抱くことは多いが、それらは結局、自分と同じ「唯の人」が作り上げた世界である。この言葉は、外に理想郷を求めるよりも、自分が属する社会の中で改善や工夫を積み重ねることの重要性を教えている。逃避ではなく、現実の中での適応と行動こそが、人の世をより住みやすくする唯一の道なのである。
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