「僕は象を『可愛いと思うもの』にし、雲を『美しいと思うもの』にした。それは僕には真実だった。が、僕の答案はあいにく先生には気に入らなかった。『雲などはどこが美しい?象もただ大きいばかりじゃないか?』。先生はこうたしなめた後、僕の答案へ×印をつけた」

芥川龍之介の名言・格言・警句(画像はイメージです)
芥川龍之介の名言・格言・警句(画像はイメージです)
  • 1892年3月1日~1927年7月24日
  • 日本出身
  • 小説家、評論家

原文

「僕は象を『可愛いと思うもの』にし、雲を『美しいと思うもの』にした。それは僕には真実だった。が、僕の答案はあいにく先生には気に入らなかった。『雲などはどこが美しい?象もただ大きいばかりじゃないか?』。先生はこうたしなめた後、僕の答案へ×印をつけた」

解説

この名言は、個人の感受性と社会的評価との間にある齟齬を鋭く描いている。芥川は、象を「可愛い」、雲を「美しい」と感じた。これは彼にとって偽りのない主観的な真実であったにもかかわらず、教師の価値観には受け入れられず、「間違い」とされてしまう。この体験は、純粋な感性が権威によって否定されることの痛みを象徴している。

教師の「雲などはどこが美しい?」という言葉には、感性に対する無理解や想像力の欠如が見て取れる。芥川はこの体験を通じて、一般的な基準や常識がいかに個々人の自由な感受を押さえつけうるかを理解し、同時にそれへの反発や皮肉な視線を抱いたのであろう。ここには、表現の自由と規範との葛藤という、創作者としての初源的な体験が読み取れる。

現代においても、子供たちの自由な表現や価値観が、学校や社会の枠組みの中で矯正されてしまう場面は多い。この名言は、感性の多様性や個性の尊重がいかに重要か、そして「正しさ」が時に創造性や感動を抑圧する武器になりうることを教えてくれる。芥川の文学的出発点には、このような些細な心の傷が確かに刻まれていたのである

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