「道徳は便宜の異名である。『左側通行』と似たものである」

芥川龍之介の名言・格言・警句(画像はイメージです)
芥川龍之介の名言・格言・警句(画像はイメージです)
  • 1892年3月1日~1927年7月24日
  • 日本出身
  • 小説家、評論家

原文

「道徳は便宜の異名である。『左側通行』と似たものである」

解説

この名言は、道徳とは本質的な正義や善悪ではなく、社会生活を円滑にするための「便宜的な取り決め」に過ぎないという芥川の徹底した合理主義の立場を示している。「左側通行」とは、交通を秩序立てるための一種の社会的合意であり、それ自体が善でも悪でもない。この比喩により、道徳もまた絶対的なものではなく、場面や共同体の事情に応じて変わりうる相対的な規範であることが明確になる。

芥川は、道徳を絶対視することに強い懐疑を抱いていた。とりわけ、道徳が権力によって都合よく定義され、個人を縛るために用いられる危険性に敏感であった。したがってこの言葉には、道徳という名のもとに人々が無自覚に従わされることへの警告が込められている。道徳とは「便宜」であり、本質的な価値ではなく、秩序維持のための選択肢の一つに過ぎないという冷静な視点が浮かび上がる。

現代社会においても、この視座は重要である。倫理や道徳が時代や文化によって異なり、しばしば対立する場面において、芥川のこの名言は、道徳を絶対化せず、常にそれが何のためにあるのかを問い直す姿勢の大切さを教えてくれる。「正しさ」の名のもとに行われる抑圧や排除を防ぐためには、道徳の「便宜性」に目を開いておく必要があると、芥川は静かに告げているのである。

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