「いわゆる通俗小説とは詩的性格を持った人々の生活を比較的に俗に書いたものであり、いわゆる芸術小説とは必ずしも詩的性格を持っていない人々の生活を比較的詩的に書いたものである」

- 1892年3月1日~1927年7月24日
- 日本出身
- 小説家、評論家
原文
「いわゆる通俗小説とは詩的性格を持った人々の生活を比較的に俗に書いたものであり、いわゆる芸術小説とは必ずしも詩的性格を持っていない人々の生活を比較的詩的に書いたものである」
解説
この名言は、通俗小説と芸術小説の本質的な違いを鋭く捉えた文学論である。芥川は、両者の違いが単にテーマや階級、文体の違いにあるのではなく、書かれる対象とその表現の仕方のズレにあると喝破している。つまり、通俗小説は本質的に詩的な人物たちを、あえて平凡な筆致で描くことが多く、一方で芸術小説は非詩的な人物の日常を、詩的な形式や視点で昇華しようとするのである。
この区別は、芥川自身の文学観に直結する。彼は芸術において技巧と形式の洗練を重視し、現実の人生の粗さや混沌を芸術的構築の中に再配置することを追求した。大正から昭和初期にかけての日本文学は、自然主義の影響のもと写実に傾きつつも、象徴主義やモダニズムの台頭により「芸術とは何か」が真剣に問われた時代であった。そのなかで芥川は、単なる現実描写ではなく、詩的構造によって現実を解釈する態度を芸術小説の本質と見なしていた。
この視点は現代においても有効である。たとえば、恋愛や冒険といったドラマチックな題材を平易な文体で描くベストセラー小説(通俗小説)と、日常の平凡な人間関係や内面を緻密な構成と文体で描く純文学(芸術小説)との違いに通じる。芥川のこの定義は、何を描くかではなく、どう描くかにこそ文学の本質があることを教える、明快かつ深い洞察である。
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