「感覚とは、事物の感覚的形相をその物質なしに自らの中に受け取る能力である。それは、蝋が印章の刻印を受け取るとき、鉄や金そのものではなく、その形を写し取るようなものである」

アリストテレスの名言・格言・警句(画像はイメージです)
アリストテレスの名言・格言・警句(画像はイメージです)
  • 紀元前384年~紀元前322年
  • 古代ギリシャのマケドニア出身
  • 哲学者、科学者、学園「リュケイオン」設立者

英文

“A sense is what has the power of receiving into itself the sensible forms of things without the matter, in the way in which a piece of wax takes on the impress of a signet-ring without the iron or gold.”

日本語訳

「感覚とは、事物の感覚的形相をその物質なしに自らの中に受け取る能力である。それは、蝋が印章の刻印を受け取るとき、鉄や金そのものではなく、その形を写し取るようなものである」

解説

この言葉は、アリストテレスが『霊魂論(デ・アニマ)』で展開した知覚と形相(エイドス)の理論を象徴する一節である。彼にとって感覚とは、単に物理的刺激を受け取る器官ではなく、物事の「形」や「性質」を、その物質を伴わずに認識する能力である。蝋が印章の「かたち」を受け取るが、材質である金属は受け取らないという比喩は、感覚が対象の形相のみを受容する性質を巧みに表している。

この考え方はアリストテレスの形相と質料の区別に基づいており、感覚器官は対象の質料(実体)を取り込むことなく、その本質的な情報だけを取り入れるとする。たとえば、目は赤いリンゴの赤さや丸さを知覚するが、リンゴそのものを取り込むわけではない。これは、知覚とは外界の本質を内的に反映する行為であるという、古典的な認識論の根幹をなす思想である。

現代の神経科学とは異なる枠組みながらも、アリストテレスのこの理論は、感覚が単なる物理的受容を超えて、知的認識の起点となる役割を果たすことを示している。この名言は、人間が世界をどのように経験し、それを理解するかという問題に対する深い哲学的回答を与えており、認識の本質を探るうえで今なお示唆に富む見解である。

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