「賢者は、むやみに危険に身をさらすことはしない。彼が心から価値を見いだすものはごくわずかだからである。しかし重大な危機においては、命さえも捧げる用意がある――ある条件下では、生きるに値しないと知っているからである」

- 紀元前384年~紀元前322年
- 古代ギリシャのマケドニア出身
- 哲学者、科学者、学園「リュケイオン」設立者
英文
“The wise man does not expose himself needlessly to danger, since there are few things for which he cares sufficiently; but he is willing, in great crises, to give even his life – knowing that under certain conditions it is not worthwhile to live.”
日本語訳
「賢者は、むやみに危険に身をさらすことはしない。彼が心から価値を見いだすものはごくわずかだからである。しかし重大な危機においては、命さえも捧げる用意がある――ある条件下では、生きるに値しないと知っているからである」
解説
この言葉は、アリストテレスが『ニコマコス倫理学』において語る勇気の徳とその限界に関する深い考察を示している。彼にとって真の勇気とは、無謀に危険へ飛び込むことではなく、理性によって熟慮された目的のために恐れを乗り越える姿勢である。賢者は、命よりも価値あるものが何かを見極める能力を持っており、そのためにこそ命を賭けることを選ぶ。
この言葉に表れているのは、生の質と意味への問いである。アリストテレスは、単に生き延びることを善とするのではなく、善き生=徳に基づいた生こそが生きるに値すると考えた。したがって、徳が不可能な状況――たとえば極端な不正や自由の完全な喪失――では、生存よりも名誉ある死を選ぶことも理にかなうとする立場をとっている。
この思想は、現代においても倫理的決断や英雄的行為の根拠として評価される。極限状況において、自己保存よりも理念や他者への責任を優先する姿勢は、政治的信念、道徳的義務、あるいは人間としての尊厳の表れである。この名言は、理性と道徳のバランスに基づく「勇気ある生き方」とは何かを示す、古典的でありながら現代的な教訓である。
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