「もし私たちの状態が本当に幸福であるならば、それから気をそらして幸福になろうとはしないはずだ」

• 1623年6月19日～1662年8月19日
• フランス出身
• 哲学者、数学者、物理学者、キリスト教神学者

英文

“If our condition were truly happy, we would not seek diversion from it in order to make ourselves happy.”

日本語訳

「もし私たちの状態が本当に幸福であるならば、それから気をそらして幸福になろうとはしないはずだ」

解説

この言葉は、人間が現実の状態に満足していないからこそ「気晴らし（divertissement）」を求めるというパスカルの重要な洞察を示している。彼は、人が娯楽や活動、社交に没頭するのは、現在の自分の状態に内在する空虚や不安を直視したくないからであると見抜いていた。つまり、「気晴らしを必要とする」という事実そのものが、人間の内的な不満や不安の証拠なのである。

この思想は、パスカルが『パンセ』で繰り返し論じたテーマの一つであり、人間の惨めさと逃避の構造に対する深い批判である。もし人が本当に満ち足りていたならば、静けさの中でその状態を楽しめるはずであり、外界の刺激や逃避行動を求めることはない。だが実際には、人間は絶えず動き回り、何かに没頭することで存在の不安を忘れようとする。

現代社会においても、SNS、エンタメ、仕事中毒といった形で「気晴らし」は日常の一部となっているが、それはしばしば内面の空虚さや現状への不満の裏返しでもある。この名言は、本当の幸福とは逃避を必要としない状態であり、自分自身や人生に対して誠実に向き合える平安を持つことであるという、厳しくも深い真理を突きつけている。

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