「あなたたち哲学者は幸運な人たちです。紙の上に書くことができ、紙は辛抱強いのです。不幸な女帝である私は、生きた人間という傷つきやすい皮膚の上に書かねばなりません」

- 1729年5月2日~1796年11月17日
- ロシア帝国出身(生まれはプロイセン王国)
- 女帝、啓蒙君主、政治改革者
英文
”You philosophers are lucky men. You write on paper and paper is patient. Unfortunate Empress that I am, I write on the susceptible skins of living beings.”
日本語訳
「あなたたち哲学者は幸運な人たちです。紙の上に書くことができ、紙は辛抱強いのです。不幸な女帝である私は、生きた人間という傷つきやすい皮膚の上に書かねばなりません」
解説
この名言は、思想と現実政治の決定的な違いを痛烈に浮き彫りにしている。「紙は辛抱強い」という表現は、理論や理念はいかに過激でも、紙の上では無害であるという意味であり、それに対して「生きた人間の皮膚に書く」というのは、政治的決断が直接的に人々の生活や運命を左右することを指している。すなわち、理想を語る哲学者と、現実を担う統治者との距離を明確にしているのである。
この言葉は、啓蒙思想を取り入れつつも、国家を実際に動かす責任の重さに苦悩したエカチェリーナ2世の心情をよく表している。彼女はヴォルテールやルソーらと積極的に書簡を交わし、理性や自由を称賛しながらも、農奴制の存続や暴動の抑圧など、現実的かつ非理想的な決断を下さねばならなかった。その矛盾に対する自覚と、哲学者との立場の違いが、この言葉には凝縮されている。
現代でも、理論や評論と、政治・経営など実務の世界の乖離は顕著である。書斎での理論と現場での実行が必ずしも一致しないという状況において、この名言は、現実に手を下す者の孤独と重圧、そして皮肉を伴った諦念を示す。理念を掲げる者と行動を担う者との断絶を深く見つめさせる一言である。
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