「心理学という学問は、肯定的側面よりも否定的側面において遥かに多くの成功を収めてきた……それは人間の欠点や病、罪について多くを明らかにしてきたが、人間の可能性、美徳、達成可能な願望、あるいは心理的健康についてはほとんど明らかにしてこなかった」

- 1908年4月1日~1970年6月8日
- アメリカ合衆国出身
- 心理学者、教育者、理論家
- 人間性心理学の創始者の一人として知られ、「欲求階層説」や「自己実現」の概念を提唱。人間の成長や潜在能力に焦点を当てた理論は、心理学のみならず教育・ビジネス分野にも大きな影響を与えた。20世紀の心理学思想における中心的人物である。
英文
“The science of psychology has been far more successful on the negative than on the positive side… It has revealed to us much about man’s shortcomings, his illnesses, his sins, but little about his potentialities, his virtues, his achievable aspirations, or his psychological health.”
日本語訳
「心理学という学問は、肯定的側面よりも否定的側面において遥かに多くの成功を収めてきた……それは人間の欠点や病、罪について多くを明らかにしてきたが、人間の可能性、美徳、達成可能な願望、あるいは心理的健康についてはほとんど明らかにしてこなかった」
解説
この言葉は、アブラハム・マズローが人間性心理学の創始者として提唱した批判的立場を如実に示している。彼は、20世紀前半までの心理学が、精神疾患や異常行動の研究に偏重しすぎていたことに警鐘を鳴らした。フロイト派や行動主義心理学が主に人間の「欠陥」や「病理」に焦点を当てていたのに対し、マズローは人間の肯定的側面に光を当てる必要性を訴えたのである。
この視点から彼は、「自己実現」や「心理的健康」こそが心理学の中心課題であるべきとし、人間が本来持つ潜在能力や道徳性、創造力を科学的に探求する「ポジティブ心理学」の礎を築いた。心理学は、単に病んだ心を正常に戻すための学問ではなく、人間がよりよく生き、よりよく成長することを可能にする学問であるべきだという主張がこの言葉に込められている。
現代においてこの見解は、レジリエンス、ウェルビーイング、マインドフルネスといった分野で広く応用されている。マズローの批判は、心理学の視野を広げ、人間の強みや可能性に着目する潮流の出発点となった。この言葉は、今なお心理学の方向性を問い直す上で極めて重要な警句である。
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