「真理の範囲の外に押しやられた者は、誰であれ幸福にはなれない。そしてその外に出る道は二つある――嘘をつくこと、あるいは嘘をつかれることだ」

- 紀元前1年頃~紀元65年
- ローマ帝国出身
- 哲学者、政治家、劇作家、倫理思想家
- ストア派哲学の代表的人物として知られ、道徳と内面の自由を重視する思想を展開。皇帝ネロの教育係を務めた後、政治から退き著述に専念し、多くの書簡や悲劇作品を通じて後世の倫理思想やキリスト教思想にも影響を与えた。
英文
“No one can be happy who has been thrust outside the pale of truth. And there are two ways that one can be removed from this realm: by lying, or by being lied to.”
日本語訳
「真理の範囲の外に押しやられた者は、誰であれ幸福にはなれない。そしてその外に出る道は二つある――嘘をつくこと、あるいは嘘をつかれることだ」
解説
この言葉は、人間の幸福が真理との結びつきによって成立するものであり、虚偽に関与することはその根本を損なうという、セネカの倫理的・哲学的信念を示している。ストア派においては、理性と一致する真実の認識と行動が、人間としての徳と平静の核心である。この名言は、自己の内外いずれにおいても虚偽があるかぎり、真の幸福に到達することはできないという厳格な道徳観に基づいている。
「嘘をつくこと」と「嘘をつかれること」は一見対照的な行為だが、セネカにとってはどちらも真理から切り離された状態をもたらすという点で同質の危険を孕む。嘘をつく者は、自ら真理を否定することで自己を偽りの世界に置き、嘘を信じる者は、現実を見誤ることで判断と行動を誤り、結果として徳を損なう。いずれにしても、人は真理に基づいて生きるときにのみ、誠実さ・平静・内的な一貫性を得ることができる。
現代でも、情報の洪水や虚偽報道、欺瞞に満ちた言動が日常化する中で、セネカのこの言葉は、真理を守ることの倫理的重みと、それを損なうことが幸福そのものを根底から揺るがすという警告を改めて突きつける。自己を偽らず、他者を欺かず、真実に基づいて生きることこそが、真の幸福と人間らしさを築く唯一の道である――この名言は、誠実と理性を土台とした生き方の価値を再確認させる、哲学的な警句である。
感想はコメント欄へ
この名言に触れて、あなたの感想や名言に関する話などを是非コメント欄に書いてみませんか?