「民衆ほど当てにならぬものはなく、人の意図ほど不明瞭なものもなく、選挙制度ほど欺きに満ちたものもない」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”Nothing is more unreliable than the populace, nothing more obscure than human intentions, nothing more deceptive than the whole electoral system.”
日本語訳
「民衆ほど当てにならぬものはなく、人の意図ほど不明瞭なものもなく、選挙制度ほど欺きに満ちたものもない」
解説
この言葉は、政治と民意、そして制度そのものの不確実性と不透明さに対するキケロの冷厳な認識を示す格言である。彼は、共和政ローマの末期にあって、民衆が感情に流されやすく、個人の意図は計り知れず、制度――とりわけ選挙――はしばしば表向きの公正さの背後に欺瞞と操作を孕んでいると痛感していた。この言葉には、政治的現実への鋭い洞察と、制度に対する理想と現実の乖離に苦しんだキケロの失望がにじんでいる。
キケロの政治哲学では、共和政の根幹は理性と徳に基づく統治にあるとされていたが、実際の政治の現場では感情的な扇動や買収、裏取引が横行し、民意や選挙の公正さが損なわれる場面が多かった。この格言は、名目上の「人民主権」や「民主的選出」が、必ずしも高徳な統治者を選ぶとは限らない現実を痛烈に突いたものである。
現代においてもこの格言は、ポピュリズム、フェイクニュース、選挙制度の形骸化、不透明な政治資金などの問題に直結する。民主主義が制度として存在していても、それが真に機能するためには、民衆の判断力、政治家の誠実さ、制度の透明性という三つの要素が揃って初めて成り立つ。キケロのこの言葉は、政治制度の美名に隠れた危うさを明らかにし、民主主義の本質的課題に鋭く迫る、今なお生々しい警句である。
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