「国家にとっての死は、人間にとっての死ほど自然なものではない。人間にとって死は必要であるばかりか、しばしば望ましいことすらあるのだから」

マルクス・トゥッリウス・キケロの名言
マルクス・トゥッリウス・キケロの名言

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。

英文

”Death is not natural for a state as it is for a human being, for whom death is not only necessary, but frequently even desirable.”

日本語訳

「国家にとっての死は、人間にとっての死ほど自然なものではない。人間にとって死は必要であるばかりか、しばしば望ましいことすらあるのだから」

解説

この言葉は、人間と国家の本質的違いを「死」という観点から捉えたキケロの政治哲学的洞察を示す格言である。彼は、人間は生物として有限であり、老いや病を経て自然に死を迎える存在である一方、国家は理性と制度によって築かれる人工的な共同体であり、本来は不滅を志向するものであると考えていた。つまり、国家の死(崩壊・滅亡)は自然な運命ではなく、しばしば不正、無秩序、道徳の腐敗によって引き起こされる人為的な悲劇であるという立場である。

この思想は、キケロが『国家について(De Re Publica)』や『義務について(De Officiis)』で展開する、共和政ローマの理想とその衰退に対する深い憂慮と倫理的訴えと重なっている。彼は、国家は市民の徳と法の支配によって存続すべきものであり、それが失われるとき国家の死が訪れると警告していた。そしてそれは、自然の摂理ではなく、市民の怠慢や為政者の堕落によってもたらされる悲劇である

現代においてもこの格言は、民主主義の危機、制度の崩壊、社会秩序の混乱といった現象を考える上で重要な視点を与える。国家の命運は自然に任されるものではなく、絶えず維持され、倫理と理性によって支えられなければならない。キケロのこの言葉は、国家という共同体が存続し続けるには不断の努力と徳が必要であることを示し、個人と国家の在り方を同時に問い直す、深い警鐘を鳴らす格言である

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