「人は喜びを忘れ、苦しみを覚えている」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”We forget our pleasures, we remember our sufferings.”
日本語訳
「人は喜びを忘れ、苦しみを覚えている」
解説
この言葉は、人間の記憶が快楽よりも苦痛に強く反応するという、キケロの人間心理に対する鋭い観察を示した格言である。彼は、快楽は通り過ぎれば影のように消えていくが、苦しみは心に痕跡を残し、長く記憶にとどまり続ける性質を持つと考えた。この現象は、人間の感情における「ネガティブ・バイアス」――悪い経験ほど記憶に残る傾向――の古代的洞察ともいえる。
この考え方は、キケロの著作『トゥスクルム対話(Tusculanae Disputationes)』に見られる、苦しみの本質や記憶の作用についての議論と一致する。彼は、人間は理性によって苦しみを克服するべきであると説く一方で、苦しみの記憶が人間の行動や判断に大きな影響を与えることを認めていた。この格言は、そのような精神的痕跡の力を簡潔に表している。
現代においてもこの言葉は、トラウマ、ストレス、心理療法などの分野で深い示唆を与える。たとえば、人は楽しい出来事よりも、辛い経験や失敗の方を強く記憶し、人生観や対人関係に影響を及ぼす。それゆえ、苦しみを記憶することの意味を理解し、それを乗り越える手段として理性や共有、癒しの過程が必要となる。キケロのこの格言は、記憶の偏りが人間の感情や行動をどう形成するかを示す、心理的にも倫理的にも深い教訓を含んだ名言である。
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