「他人の運に感嘆することはあっても、自分の運命に不満を覚えるほどではない」

マルクス・トゥッリウス・キケロの名言
マルクス・トゥッリウス・キケロの名言

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。

英文

”I never admire another’s fortune so much that I became dissatisfied with my own.”

日本語訳

「他人の運に感嘆することはあっても、自分の運命に不満を覚えるほどではない」

解説

この言葉は、他人の成功や幸福に心を奪われすぎて、自分自身の人生を否定するような愚かさを戒めるキケロの節度ある人生観を表した格言である。彼は、羨望や比較によって自分の運命や現状を悲観するのではなく、与えられたものを尊重し、誠実に生きることこそが精神の安定と徳の根幹であると考えた。つまり、他者への賞賛はあってよいが、それが自己否定に変わるべきではないという、自尊と節度の倫理がここに込められている

この考えは、キケロの『義務について(De Officiis)』や『老年について(De Senectute)』などに通底するものであり、幸福とは外的条件や他者との比較ではなく、内面の充実と理性に基づく生き方に宿るという古典的な価値観に基づいている。彼は、人間の価値は「運」や「地位」ではなく、その人がどのように自らの運命と向き合い、それを生き抜くかによって定まると信じていた

現代においてもこの格言は、SNSやメディアによって他人の「幸せ」や「成功」が絶えず目に入る時代において、自己肯定と満足の感覚を取り戻すための重要な教訓となる。他人の人生を羨むことは避けがたいが、それが自己の価値を損なう要因とならぬよう、キケロのように、自分の人生を見つめ、受け入れ、尊重する姿勢を忘れないことが、精神の自由を守る鍵である。この格言は、比較よりも内省を、羨望よりも感謝を促す、時代を超えた知恵の言葉である

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