「何という醜い獣、猿よ。そしてなんと我々に似ていることか」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”What an ugly beast the ape, and how like us.”
日本語訳
「何という醜い獣、猿よ。そしてなんと我々に似ていることか」
解説
この言葉は、人間と動物の類似性を皮肉と嘆きの混じった調子で表現し、人間の姿や本性を相対化するキケロの諷刺的観察である。猿は古来より「人間に最も近い動物」とされ、その動作や表情が人間的であるがゆえに、不気味さや滑稽さを感じさせる存在であった。キケロはその特徴を取り上げて、猿の「醜さ」と「人間への類似」が同時に指摘されることで、人間自身の滑稽さや醜さをも暗に批判している。
このような表現は、キケロの修辞的才能の表れであり、彼が得意とした道徳的警句や風刺的言い回しの一つであるともいえる。彼はしばしば、人間の傲慢さや虚飾を暴くために、自然や動物との比較を用いた。この言葉は、単に猿を嘲笑するものではなく、人間の自己認識の限界や、理性をもつ者としての自負が時に滑稽でさえあるという逆説的なメッセージを含んでいる。
現代においてもこの格言は、人間中心主義への批判、進化論の文脈、あるいは文明批判の言説とも共鳴する。科学的には、人間と猿が極めて近い生物学的親縁関係にあることが明らかになっており、人間の特権性が揺らぐ中で、自らを省みる言葉としてこの格言は鋭く響く。キケロのこの言葉は、人間とは何か、我々はいかに滑稽で、同時に自己認識的な存在であるかを突きつける、哲学的かつ風刺的な一撃である。
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