「自分より優れた者がいると信じた詩人や雄弁家など、かつて存在したためしはない」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”No poet or orator has ever existed who believed there was any better than himself.”
日本語訳
「自分より優れた者がいると信じた詩人や雄弁家など、かつて存在したためしはない」
解説
この言葉は、詩人や弁論家といった創造と表現を生業とする人々に宿る、誇りと自己信念の強さを皮肉を込めて表したキケロの観察である。彼は、創作や雄弁という行為には、他者を凌駕しようとする自己確信、あるいは自己陶酔のような感情が不可欠であると考えており、それがなければ人の心を動かす表現など成り立たないと見ていた。つまり、自己の言葉に揺るぎない自負を持つことが、表現者としての本質的条件であるという逆説的な真理が語られている。
この見方は、キケロ自身が優れた弁論家・作家であったという事実とも深く結びついている。彼はローマ社会における言葉の力を熟知しており、聴衆を説得し、心を動かすためには、内容の正しさ以上に、話者の確信と自負が重要であると感じていた。この言葉には、名声や承認を求めるだけでなく、「自分こそが最も優れている」と信じてこそ成し遂げられる表現行為の本質が皮肉とともに込められている。
現代においても、この言葉は表現者や創作者の心理を鋭く捉えている。作家、芸術家、思想家など、何かを世に問おうとする者には、「自分の表現が価値を持つ」という強い信念が求められる。同時に、この自己信頼が過信や独善に転じる危うさも孕む。キケロのこの格言は、表現の背後にある自己認識の強さと、それに伴う孤独や傲慢の影も併せて見据えた、人間観察の鋭さを示す言葉である。
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