「老年における助言は愚かである。旅の終わりに近づいているというのに、道中のための荷を増やすことほど馬鹿げたことがあるだろうか」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”Advice in old age is foolish; for what can be more absurd than to increase our provisions for the road the nearer we approach to our journey’s end.”
日本語訳
「老年における助言は愚かである。旅の終わりに近づいているというのに、道中のための荷を増やすことほど馬鹿げたことがあるだろうか」
解説
この言葉は、人生の終盤において過剰な蓄えや計画を重ねることの無意味さを皮肉を込めて指摘する、キケロの老年観の一側面である。彼は、老いに至ってなお未来のための備えに執着するのは、まるで旅の終わりが近づいているにもかかわらず、さらに荷物を増やすような滑稽さがあると語ることで、人間の欲望と執着の不合理さを浮き彫りにしている。
しかしこの言葉は、単なるニヒリズムではない。キケロは『老年について(Cato Maior de Senectute)』の中で、老年は実りの季節であり、今まで積んできた知恵と徳をもって静かに人生を味わうべき時であると説いている。この言葉は、老いにおいては未来を心配するよりも、過去の蓄積を振り返り、今という時間を意味深く過ごすことこそが賢明であるという思想と通じている。
現代においてもこの言葉は重要な問いを投げかける。高齢期にも際限なく資産形成や社会的成功を追い求める風潮や、死を過剰に恐れて未来を積み増そうとする行為がある一方で、キケロのような視点は「いかに満ち足りて生を終えるか」への知恵を提供してくれる。人生の終点に近づくときこそ、荷を増やすのではなく、荷を下ろして軽やかに進むべきであるというこの言葉は、老いと死に向き合うための静かな哲学的示唆を私たちに与えている。
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