「誓われもせず隠された憎しみは、公然とされた憎しみよりも恐れるべきである」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”Hatreds not vowed and concealed are to be feared more than those openly declared.”
日本語訳
「誓われもせず隠された憎しみは、公然とされた憎しみよりも恐れるべきである」
解説
この言葉は、内に秘められた敵意のほうが、表立って示される憎しみよりもはるかに危険であるというキケロの政治的かつ心理的洞察を示している。彼は、公にされた敵意は対処や警戒が可能だが、隠された憎しみは予測できず、裏切りや陰謀といった形で突然牙をむくことを熟知していた。見えない敵意こそ最も警戒すべきであるという冷静な警句である。
この考え方は、キケロが生きた政争と陰謀に満ちたローマ共和政末期の政治状況と深く結びついている。彼自身も、表面上は友好を装いながら陰で敵対する人物たちに囲まれていた経験を持ち、政治の世界では沈黙や偽りの平静が、実は最も危険な兆候であることを身をもって知っていた。したがってこの言葉は、表面的な和解や沈黙を真に受けてはならないという現実的な警告でもある。
現代社会においてもこの洞察は有効である。職場や政治、国際関係において、建前の下に隠された敵意や不満が、対立の深刻な引き金となる例は枚挙にいとまがない。たとえば、平静を装う外交の裏で対立が激化していた事例や、内部告発によって明らかになる組織内の深刻な不和などは、まさにこの言葉の現代的実例である。キケロのこの言葉は、真の危機とはしばしば沈黙のうちに育つという、鋭い人間観察の賜物であり、注意深さと見抜く力の重要性を強く訴えている。
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