「婚姻を成立させるのは同居ではなく、合意である」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”Not cohabitation but consensus constitutes marriage.”
日本語訳
「婚姻を成立させるのは同居ではなく、合意である」
解説
この言葉は、結婚の本質を外形ではなく内面の意思に求める、キケロの法的かつ哲学的見解を示している。彼は、婚姻とは単なる生活の共有ではなく、互いに結び合うという自発的な合意にこそ本質があると述べており、これはローマ法の原理「合意が婚姻を成す(consensus facit nuptias)」を端的に表現したものでもある。つまり、当人同士の自由な意思がなければ、形だけの結びつきは真の婚姻とは認められないという立場である。
この見解は、古代ローマ社会における家族制度と法の発展にも影響を与えた。たとえば、奴隷のように法的主体ではなかった者には婚姻の権利が認められず、逆に法的地位のある市民には合意による結婚と離婚の自由があった。キケロのこの発言は、人間関係における契約と同意の重みを強調するものであり、現代における結婚観の源流ともなっている。
今日でもこの言葉は深い意味を持つ。形だけの結婚生活や社会的圧力による結婚ではなく、心からの合意と尊重こそが結婚の本質であるという価値観は、多様な家族形態が認められる現代においてますます重要となっている。たとえば、事実婚や同性婚の法的認知の議論においても、「合意」が婚姻の核心であるというキケロの立場は、制度のあり方を問い直す鍵となり得る。形式ではなく意思こそが人間関係の基礎であるというこの言葉は、古代から現代に至るまで、変わらぬ倫理的真理を伝えている。
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